あなたは「役不足」の意味を「荷が重い」とか「役目が重すぎる」なんて思っていませんか。
もちろん、あなたは大丈夫だと思いますよ。
でもある男性が、「役不足」の意味を勘違いして使い、人生を棒に振ってしまったんです。
えっどうして・・・と思いますよね。でも他人事ではないんです。
これから実話にもとづいたある男性の悲劇をご紹介します。
役不足の使い方を間違えた男の悲劇
あるプロジェクトチームにその能力をかわれて抜擢された山田(仮名)さん。
チームリーダーから、メンバーに自己紹介をするようにいわれ、当然のように自分を謙遜したつもりでこう挨拶しました。
「私にはこの仕事はまったくの役不足ですが、やるからにはがんばりますのでよろしくお願いします」
ところが挨拶した途端に周りの空気が一変しました。
今までにこやかだったメンバーの表情が冷たい視線に変わったのです。
どうしてなのか不安になり、隣りにいるチームリーダーの顔を見ると、明らかに不機嫌な様子でした。
その2日後に山田さんはメンバーから外されました。
次に配属された部署は、社内で相当に高い能力を持つ人間だけが配属される重要部署でした。
チームリーダーからの推薦があったからだといいます。
そしてわずか2ヶ月後に、山田さんは会社をやめました。仕事の重圧に押しつぶされ、うつ病になってしまったのです。
すべての始まりは、「この仕事は自分には役不足です」と挨拶した一言だったのです。
会社からみれば、そんな山田さんが頼もしく思えて、より重要な部署に配置換えしてその実力を期待したのです。
しかし山田さんには、もともと会社が期待するほどの実力なんてなかったのです。
たんに本人が「役不足」の意味を勘違いして挨拶しただけだったんです。
会社側も本人の能力を見抜けなかったのかとツッコミを入れたくなるところなんですが・・・、
これはその会社にいる知人から聞いた話ですから、本当にあった、嘘のような実話なんです。
山田さんがその後どうなったかって?
だれも知らない、気にもかけていません。ただ、「自業自得だな」とはいっています。
「役不足」の意味ってなに?
「役不足」とは、
その人の地位や実力に比べて与えられた役目、仕事が軽すぎることです。
もともとは歌舞伎の世界で使われていたことばです。
役者の格や実力に比べて、演じる役が軽すぎることを指していたのです。
そして本来、このことばは本人が自分自身に向けて使うことばではありません。第三者が、演じる役者にたいして使う評価のことばです。
役不足とは、読んで字のごとく「役」が「不足」しているということ。
役が足りてない、軽いということなんですね。
逆にいえば、もっと大きな役、重い役ができるということです。
これが今では転じて、一般社会で「当人の能力、力量に比べて与えられた役や役目が軽すぎる」ことを指すことばになりました。
役不足の意味を間違えている人は50%以上
多くの人が、役不足を「荷が重い、役目が重すぎる」という意味だと思っています。
ですから、自分の実力を謙遜する意味で「自分には役不足ですが一生懸命やります」といってしまうのです。
平成18年度の「国語に関する世論調査」で,「彼には役不足の仕事だ。」という例文を挙げて,
「役不足」の意味を尋ねました。結果は次のとおりです。(下線を付したものが本来の意味。【 】内は平成14年度調査の結果)
(ア)本人の力量に対して役目が重すぎること・・・・・・・・・・・・・・ 50.3% 【62.8%】
(イ)本人の力量に対して役目が軽すぎること・・・・・・・・・・・・・・ 40.3% 【27.6%】
(ア)と(イ)の両方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2.9% 【 2.8%】
(ア),(イ)とは全く別の意味・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 0.3% 【 1.8%】
分からない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6.2% 【 5.0%】
自分を謙遜したつもりなんでしょうが、聞く人が聞けば、「自分の能力からすれば、やりがいのない片手間仕事ですが、与えられた以上は一生懸命やります」ということになるのです。
これでは周りの常識ある人達のひんしゅくを買うのも当然です。
「私には役不足で・・・」といった相手が運悪く気難しい人だったら、目も当てられません。
場合によっては会社内での居場所がなくなるかもしれません。
「私、コレ(役不足)で会社をクビになりました」なんてね(じん兵衛 古すぎますかね 笑い)
役不足はリスクをともなうから使わないほうがよい
役不足は、第三者が当人の役目や仕事が当人の力量に比べてどうなのかを評価するときに使うことばです。
自分の能力を評する文脈で使うことばではありませんから、「役不足ですが、一生懸命がんばります」という使い方はそもそも間違っているのです。
「この仕事は君には役不足だからほかの人間に回したよ」と上司からいわれたとしたら、「君にこの仕事は軽すぎるよ」と上司があなたの力量を高く評価しているということです。
役不足は褒め言葉でもありますから、喜ぶべきことなんです。
が、しかし、それには
上司が「役不足」の意味をちゃんと理解して使っていることが前提です。
ここが間違っていると、言葉の意味と言いたかったことが正反対の関係になってしまいます。
「この仕事は、君の力量ではとても任せられないから他の人間に回したよ」これがいいたかったのかもしれません。
本意はどっちなんでしょうね。
まさか「役不足の意味ご存知ですよね?」なんて聞けるはずもありません。これでは疑心暗鬼におちいります。
意思の疎通をはかるためには、誤解されやすい役不足を使わず、役不足の類語を使ってコミュニケーションを取ったほうがストレスがありません。
役不足の類語
「役不足」は、リスクを避けるためにも個人的にはあまり使いたくないことばです。
「役不足」を使わないで、役不足の類語を使ったほうが誤解を与えるリスクは減らせます。
類語とは、「先生」と「教師」のように意味の似かよった語です。
「君には役不足だからほかの人間に回したよ」ではなく、
- 君には軽すぎる仕事だから・・・
- 君でなくてできる簡単な仕事だから・・・
- 君には物足りない仕事だろうから・・・
などと話したほうが、本意を誤解されることもなくコミュニケーションをとることができると思います。
ほかにも、よく意味をとり間違えて使われることばが、こちらです。
役不足の対義語
与えられた仕事に対し自分の実力を謙遜して挨拶する場合、
「自分には役不足ですが一生懸命やります」というのは間違いです。
役不足の対義語、反対語を使うべきです。
最も適した言葉は「力不足」ですが、その他にも幾つかあります。
- 私では力不足ですが、一生懸命やります。
- 非力ではありますが、しっかりつとめあげます。
- 未熟ではありますが、がんばります。
まとめ
「役不足」とは、当人の能力、力量に対して、与えられた役目や仕事が軽すぎることをいいます。
「荷が重いとか重すぎる」ことを言い表すために使うことばではありません。
本来は第三者が当人の役目や仕事が当人の力量に比べて「軽すぎる」と評価して使うことばですので、自分の能力を評する文脈では使えません。
このことからも、「役不足ではありますが、一生懸命がんばります」は役不足の用法が間違っています。
「荷が重すぎる」ことをいいたければ、「自分には力不足ですが・・・」というべきです。
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